渋谷実『霧ある情事』『仰げば尊し』

7/9木シネマヴェーラ渋谷渋谷実のおかしな世界〉
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【人間の醜さの強調、ブラックすぎて笑えない展開、中盤から破綻していく物語、予定調和を断固として拒否するラスト、失敗作とも見紛うシュールでアバンギャルドな作風】そうこれぞ渋谷実だ。今まで観たのはわずか3作↓(『悪女の季節』『大根と人参』『現代人』)だがこの人ほど衝撃的な監督はいない。
http://domperimottekoi.hatenablog.com/search?q=%E6%B8%8B%E8%B0%B7%E5%AE%9F
http://d.hatena.ne.jp/domperimottekoi/20150609/1433782160

今日の2本↓。
『霧ある情事』(1959松竹)
(※ネタバレ注意→)http://movie.walkerplus.com/mv26270/

岡田茉莉子 津川雅彦(ともにあまり似てないが)。前年『悪女…』で助演ながら強烈な印象を刻んだ岡田が今作では主演。まさに上の惹句↑の「予定調和を断固拒否するラスト」が如実に出た傑作──と言っても通例の意味じゃなく「渋谷実イズムでの傑作」と断らねばならない。ある種のサスペンスと言えなくもないが渋谷の映画は常にジャンル分け不可能な上にどこへ持っていかれるのか判らない展開が大特徴。おそらく脚本もほとんどが好き勝手に変更されてると想像される。この作はそんな監督の色彩が濃厚過ぎて俳優陣はやや没個性化を否めず津川も二枚目ぶりは吹っ飛び情けなさ一辺倒。敢えて最好演を挙げれば岡田の放蕩な父親役菅井一郎か。なお津川とその父親代わり役の加東大介は実生活でも甥と叔父の血縁。


仰げば尊し』(1966東宝)
http://movie.walkerplus.com/mv21766/

田村高廣 森繁久彌 佐々木愛。冒頭に出るタイトルは『喜劇 仰げば尊し』となってるが【人間の醜さの強調、ブラックすぎて笑えない展開】がピタリ当て嵌まり過ぎるだけに実は喜劇とは言い難い。同じ東宝の「社長シリーズ」「駅前シリーズ」で人気絶頂期だった森繁主演なのでそう題したんだろうが。後年「森繁病」などと秘かに揶揄されたらしい「喜劇役者から老境の名優へ」の架橋期になる作と思われ森繁の喋りや演技にそのあたりが出ていて最初やや鼻についたがここまで終始の大熱演だと天晴れと言うしかない。が助演陣(木村功 谷啓 三木のり平ら)は豪華ながら全員出番短く勿体なし。唯一出ずっぱりの佐々木愛は極端に台詞少ないし(実母佐々木光枝が母親役)。ロケの半分を撮った今治では名作として碑まで建ってるらしいがこんな性悪説的な映画にそういう持ち上げはほんとは似合わないようにも思える。なお渋谷は前年『大根と…』のあと松竹を追われたそうだが師匠筋小津の遺作脚本をあれだけ茶化したら無理もなく、その意味で東宝に移っての今作がヒットしたのは千載一遇だったろう。















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