『たべるのがおそい』Vol.2 / 記念トーク「ボーダーランドでお茶を」

文学ムック『たべるのがおそい』Vol.2 特集 地図─共作の実験(書肆侃侃房 2016/10月刊)読。
http://www.kankanbou.com/kankan/?itemid=751


作家/翻訳家西崎憲が編集する話題の新文芸誌第2号。刺激的。この一語に尽きる。──が当然乍らこの場合そんな一語では到底言い尽くせないという意味。作家西崎憲の書くもの(のみならずTwitterで呟く言葉も)にはいつも大いに刺激され触発されるが、編纂する誌面もまた同じ期待を裏切らない──どころか大きく上回る。特集テーマに「地図」と「共作」が挙げられているがそれは2人ずつの共作参加6作家(石川美南+宮内悠介 円城塔やくしまるえつこ 西崎憲+穗村弘)にとどまらず例えば巻末のアンナ・カヴァン(西崎憲訳)とそのすぐ前の四元康祐も地図(と言うより境界か)テーマで共作しているように見えるし大前粟生と森見登美彦は変身テーマで競っているかのようだしヤン・ヴァイス(阿部賢一訳)と津村記久子はものの見方を巡って書き合っているようにも見え定型短詩の4作家(今橋愛 岡野大輔 吉野裕之 瀬戸夏子)はまさに短い詩で想像力のバトンを渡し合っているようだしエッセイの2作家(倉本さおり 中野善夫)はフィクションと見紛う文章で息を合わせているように読め、且つそれら全てがどこかで地図あるいは場所に繋がる漠とした縛りで書いているようにも感じられる。つまり全誌面(挿絵やレイアウトも含め)が特集に参加していると感じとれる(それはあるいは編纂者の意図とは微妙に違うかもしれないが)ところに本誌の特徴と魅力が自ずと表われているような気がする。後記で西崎編集長が「あるものは凄みを感じさせ、あるものは滋味を漂わせて、それぞれが繚乱と個性を発する」と書いているとおりだがそれはこの誌面の総体によってより濃く引き出されあるいは増幅されている面もありそう。余談めくが石川+宮内共作のモチーフの1つとなるコガネネコメガエルというコトバは(ネコメガエルは実在する蛙らしいが)先頃読んでなぜか脳裏を去らない綾辻行人『深泥丘奇談・続々』に出てくるコネコメガニ・オオネコメガニ・ネコメムカデetcの奇妙なコトバをつい連想させそのあたり作家たち自身も意識しないところで世界がどこか地続きの広がりを得ているように思わせないでもなく…という妄想は兎も角としてもこの石川宮内ペアによるダエン(楕円?)なる国のレポートは続篇あるいは長篇へと書き継がれても面白そう。


…という本誌を読み終えたのは偶々Twitterで知り発作的に申し込んだ【『たべるのがおそい 第二号』刊行記念「ボーダーランドでお茶を――言葉の尽きるところ始まるところ」石川美南×大前粟生×宮内悠介×西崎憲トークイベント】(10/30於青山ブックセンター本店)…
http://www.aoyamabc.jp/event/taberunoga2/
…の観覧を跨いでのこととなった。これがまた何とも刺激的なトークで図らずも「跨いで」読んだのが正解だったかもとさえ。宮内氏海外放浪癖に関し「国境を越えることに惹かれる」との話は本誌テーマを思わせ示唆的。石川氏「歌人」というイメージに囚われない活発さ饒舌さ瞠目。その石川宮内両氏による朗読もあり西崎氏がギターで伴奏するパフォーマンスは思わぬ余禄(西崎氏の音楽家面に初めてじかに触れたのも貴重)。また大前氏は投稿が採用された『たべおそ』今号が作家デビューで20代前半。作風と合致した?キャラクター好感。


文学ムック たべるのがおそい vol.2

文学ムック たべるのがおそい vol.2





























.