小泉喜美子『痛みかたみ妬み』記念トーク 山口雅也+日下三蔵

4/2(日) 【日下三蔵の昭和SF&ミステリ秘宝館 #9 小泉喜美子
『痛みかたみ妬み - 小泉喜美子傑作短篇集』(中公文庫)刊行記念】
於Live Wire HIGH VOLTAGE CAFE
http://boutreview.shop-pro.jp/?pid=115088191
ツイッターで間近に知り急遽観覧予約。小泉喜美子は『弁護側の証人』『ダイナマイト円舞曲(ワルツ)』の2長篇しか読んでいないが山口雅也氏のトーク初聴きなので逃すまじと。前日に記念当該書『痛みかたみ妬み』(中公文庫)買い読み始めるも開催までに読了間に合わず。
http://www.chuko.co.jp/bunko/2017/03/206373.html

観覧者数意外にも小ぢんまりだったがその中に藤原義也氏 千街晶之氏 関原遼平氏らの顔あり。トークは『痛み…』編者日下三蔵氏が聞き手となり作者小泉喜美子と生前親交あった山口氏が語る形。一時体調崩していた由の山口氏現在はすっかり元気な様子だが弁舌は元気以上の快調さで日下氏ほとんど出る幕ない独壇場展開に吃驚。屡々脱線しいつ戻ってくるのかと案じられること度々あるも独特のノンシャラン話術に終始惹き込まれっ放し。小泉喜美子に関しては「よくぞ私を呼んでくれた」と前口上するほどで往時を知る人が少なくなる昨今語れるのは自分しかいまいとの気合感じられ。知遇の契機は『幻影城』1976年3月号に山口氏が署名入りで担当した「全日本大学ミステリ連合通信1 No.8」において「早稲田大学選定 日本探偵小説 悪魔の13(1ダース)」の1作に『弁護側の証人』を選出したことで(大学選定とあるが実際には山口氏個人が選んだ模様)それを偶々作者本人が目に留め連絡をくれたと言うから凄い話。無論自作が選ばれた嬉しさもあるだろうが今回参考配布された同「通信」のコピーを読むとまだ作家デビューの遥か以前だった山口氏の簡潔乍ら意志高い文章に才を感じたのかもと想像させる。『弁護側…』紹介箇所のみ引用する↓。
「頗るトリッキーな点で類が無いのが小泉氏の作。カサック等のフランス・ミステリを思わせる絶妙のエンディング」
『痛み…』解説で日下氏も「わが国における最も早い成功例」と書いているように同傾向作が現在のように普及していない時代にベストの1作に選んだのはやはり先見と言うしか。その後自宅に招かれる等交流が続いた由で最爆笑の逸話は〈深夜プラスワン〉に同行した折のある体験談だが──残念乍らここに書くのは憚られる。兎に角小泉喜美子の「強く激しい女性」ぶりが山口氏の証言の端々に横溢。代表作『弁護側…』が早過ぎたことや賞と無縁だったこと等不運な面ありとの述懐が印象的。
その他脱線話も例外なく面白いが某企画を巡るオフレコ話がタイミング逸して中断のままとなったのが惜しい(参加しなかった懇親会では語られたかも)。また『生ける屍の死』執筆前の戸川安宣氏とのやりとり始め一時会社務めしていたことや竹本健治新井素子氏ら偉才の出現を間近で見て「自分などとても作家にはなれない」とフリーライターの道に進んだ等意外な話が非常に興味深し。最後に近刊自作『落語魅捨理全集 坊主の愉しみ』(5月 講談社)の告知もあり。

翌々日『痛み…』ようやく読了。1980年刊の同題短篇集(検索しても古書サイトにもオークションにもない稀覯書)6篇に『またたかない星(スター)』(こちらも入手難)から2篇+雑誌掲載のみの2篇の計10篇収録。奥に込められた苦い皮肉味をトリッキーな展開と饒舌且つときにユーモラスな洒落た一人称文体で綴る作群は「イヤミスの元祖ここにあり!」の帯惹句決して誇張に非ずと。個人的に連想したのは狩久で休筆期も概ね同じ頃だし作風も遊戯性や軽妙さで底部の昏さ深さを隠すあたり共通するような。高完成度の表題作「痛み」「かたみ」「妬み」3部作もいいが妙にサスペンスフルな「兄は復讐する」ラスト3行が辛辣な「オレンジ色のアリバイ」水平思考要する?「ヘア・スタイル殺人事件」も大いに面白し。

因みに少ない既読作のうち『ダイナマイト円舞曲』は嘗て荒俣宏氏による絶賛(『別世界通信』?)で関心持ち読んだもので作者のお洒落エンタテインメント志向炸裂。70年代のカッパ・ノベルス版で刊行後まだ間もない頃だがその後新作を追うには至らず。『弁護側の証人』はずっと後年で某傾向の有名作と名のみ知る時期(90年代)に出た出版芸術社版(日下氏編とは当時認識せず)で読む。切れ味の鋭さに感嘆し同時期読んだ筒井康隆ロートレック荘事件』より遥かに好み。今回のトークであることを聞いたため実家で探し確認したし。
『痛み…』解説によれば現在『弁護側…』(集英社文庫版)が驚くことに10万部超のベストセラーになっているそうで今般の短篇集復刊の助力になったと思われる。数年前中町信『模倣の殺意』が50万部と大化けしたのが依然記憶に新しいが『イニシエーション・ラブ』(乾くるみ)の大ヒットと言いやはり某傾向作は今改めて「来ている」のか?


























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