柴田錬三郎『花嫁首 眠狂四郎ミステリ傑作選』末國善己編

編者末國善己氏より頂いた柴田錬三郎『花嫁首 眠狂四郎ミステリ傑作選』(2017/3月刊 創元推理文庫)読。
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488439125

ヒルな浪人剣士の代名詞とも言える円月殺法の使い手眠狂四郎。作者柴田錬三郎が「1話ずつ全てに趣向を凝らす」と宣言して週刊誌に読切連載したちまち人気を博したと言う同シリーズからとくにミステリ味の濃い21篇を選んだ傑作集。現代の謎解き物読者はあるいは「違和感を覚えるかも」と選者末國氏が解説において断るのは探偵や刑事が推理や証拠を積み重ねた末に初めて断罪する(つまり裁判で有罪にできるかが最争点となる)タイプのミステリではなく寧ろ探偵兼裁き手=眠狂四郎が直観でこうと見抜けばそれこそが即真相となる形態の事件簿であるがゆえだ。それがなぜ成立するかと言えば狂四郎は犯人を警察や法廷に引き渡す必要がなく犯罪を喝破した直後に魔剣一閃自ら葬り去ってしまうからだ。これは一見すると本格ミステリとしては反則のようだがしかし読み重ねていくと容疑者が証明の不足や弱点を衝いて無罪や完全犯罪を主張したりする現代の小説やドラマを見慣れ過ぎた目には非常に新鮮に映ると得心。まさに目から鱗。そうなのだ末國氏言うごとく「波瀾に満ちた展開の中に」鏤められた「謎解きのエッセンス」が優れているなら直観であれ論理であれ探偵の手腕と魅力は発揮されるのでありその意味で狂四郎の鋭利無比な頭脳は妖刀無想正宗の刃にも並ぶ煌めきを放つ。且つそこにはこの世界の虚無と無常が常に伴い冷たい感銘を与える。主要レギュラー陣紹介に相当する「雛の首」(『眠狂四郎無頼控』第1作)狂四郎の出生の秘密を明かす「悪魔祭」等シリーズ導入への肝要作を始め驚倒トリックの密室殺人物「湯殿の謎」河内山宗俊登場の「疑惑の棺」山中怪談の酸鼻真実が戦慄させる「妖異碓氷峠」淫虐趣味濃厚な「芳香異変」「狂い部屋」鼠小僧次郎吉見参「恋慕幽霊」映画『眠狂四郎炎情剣』原案作「悪女仇討」等々バラエティに富む。中でも個人的最好作には表題作「花嫁首」と「美女放心」を敢えて──ともに外連味ある大仕掛けな陰謀譚。要注意点は多くの作で凄惨な描写や要素があることだが──本書を手にとる読者ならそれもまた読みどころとは既に承知済みか。ニヒルで売る狂四郎がときには派手に吉原へ繰り込むなど微笑ましい?発見もまた愉しく。

発売即重版と末國氏より直に伺い。同時刊行の某書は永久に増刷できそうにないがorz…


ありがとうございました!



























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