ブラム・ストーカー『七つ星の宝石』

今度から読書感想等を折に触れこちらのブロクで書いていけたらと思います(映像関連はもう一方で)。

皮切りは〈ナイトランド叢書〉ブラム・ストーカー『七つ星の宝石』(森沢くみ子訳 アトリエサード)。
http://athird.cart.fc2.com/ca9/143/p-r7-s/

これは様々な意味で驚きに満ちている。『吸血鬼ドラキュラ』は日記や書簡の集積という体裁をとっていたがこちらは終始一人称で進む謂わば「普通の小説」の体をなし(そのため入り易く読み易い)、且つ筋運びも解説にあるように一見怪奇小説と言うより冒険探偵譚のごとく展開、当時流行の極みにあったシャーロック・ホームズの影響も感じさせる。だが当時の科学知見や世界情勢や古代エジプト学等々数多の情報が絢爛と鏤められ、現代の我々がとかく囚われ易いジャンルの垣根──ミステリー・SF・怪奇幻想etc…──を超えた綜合エンタテインメントの様相を呈している点において、『ドラキュラ』が「十九世紀の情報小説」(解説より)と呼び得たことに実は通じている。そして『ドラキュラ』がそうだったように本作も全てを読み終えたとき真髄を貫く〈恐怖小説〉の本質が暗然と浮かびあがる。力篇にして期待をも上回る傑作。
さらに面白いのはある経緯から末尾に「もう一つの結末」が付け加えられていること。これも実に驚きだ。作者ストーカーの作家人生を考える上でもこの「付録」を編入したのは大正解と思える。因みに個人的にはどちらかと言えばこの「もう一つ」のほうを敢えて好む──勿論正篇の曰く言いがたい衝撃も貴重ではあるが。

本書は70年代に予告されたまま幻と消えた〈第2期ドラキュラ叢書〉(国書刊行会)の継承に相当するとのことでその意味でも快挙。今後も本叢書がそんな〈見果てぬ夢〉の実現のため邁進されんことを期待。


七つ星の宝石 (ナイトランド叢書)

七つ星の宝石 (ナイトランド叢書)





















.