末國善己編『小説集 真田幸村』/『真田忍者、参上!』

昨年晩秋相次ぎ刊行の末國善己氏編 真田幸村とその一族に因むアンソロジー2種。
http://www.sakuhinsha.com/japan/25569.html
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309414171/

『小説集 真田幸村』(作品社 2015/10月刊)は真田家の興亡を語る正統派歴史小説と伝説&空想を駆使する伝奇的娯楽小説をとり交ぜた傑作集。後者の傾向作のほうが目立つ気がするのは編者の趣味の反映もあろうがやはり「真田」という戦国切っての物語性豊かな家柄が生む必然か。南原幹雄『太陽を斬る』は真田氏の前身 海野(うんの)氏から語り起こす言わば序章的作品、海音寺潮五郎『執念谷の物語』もそれに連なり海野輝幸を主人公とし、菊池寛真田幸村』は真田氏最有名の英傑 幸村の生涯を概説。がその他の5作はいずれも作家の創意雀躍する伝奇色濃厚。山田風太郎『刑部忍法陣』は真田と深縁の大谷吉継に猿飛佐助が絡み、五味康祐『猿飛佐助の死』はまさにその佐助の驚くべき来歴を明かし、柴田錬三郎『曾呂利新左衛門』は秀吉に仕えた伝説的文化人「曾呂利」に幸村が関わり、井上靖『真田影武者』は幸村 幸綱父子の最期に纏わる秘史に触れ、池波正太郎『角兵衛狂乱図』は作者の創作になる真田家勇将 樋口角兵衛の波乱の生涯を綴る。就中巻末の『角兵衛…』では転変する主人公の命運とともに真田家最盛期の族長=昌幸とその子=信之&幸村の関係性&各々の人間性が浮き彫りにされ示唆に富む。

一方『真田忍者、参上! 隠密伝奇傑作集』(河出文庫 2015/11月刊)はそうした戦国伝奇の象徴であり且つ真田伝説最大の魅力源である忍者をフィーチャーした精選集。上の『小説集 真田…』同様にこちらでも真田忍法の最ヒーロー猿飛佐助の活躍が全体的に一番目覚ましいが勿論他にも多士済々。柴田錬三郎『三好青海入道』では三好青海&伊藤一刀斎宮崎惇『神変卍飛脚』では風魔小太郎服部半蔵&くノ一陽炎、嵐山光三郎霧隠才蔵の秘密』では霧隠才蔵&織田獣鬼、池波正太郎『闇の中の声』では奥村弥五兵衛…etcが入り乱れ跳梁跋扈する。他に山の民「撫衆(なでし)」を描く山田風太郎『どろん六連銭の巻(連作集『いだてん百里』より)』、大坂城奥女中視点の田辺聖子『忍びの者をくどく法』はともに個性炸裂の異色篇。

両書とも伝奇色のみならずミステリー味の利いた作が多いのも編者の愛好に由来するか。そこには登場人物たちの出生の秘密や死後の謎(祟り伝説、生存説等)が絡むので、畢竟伝奇とミステリーの類縁性がゆくりなくも浮かびあがる。源義経坂本龍馬にも通じる神秘的英雄としての真田幸村のイメージが一段と強まり、大衆が憧れる物語の主役に──ひいては大河ドラマ主人公に恰好の器と改めて認識。『真田丸』初回前に読み了え吉哉。


なお「幸村」という通称は後世軍記等を通じ一般化したそうで今般の2書でも多くの作がそれを採っているが、大河では史実上の「信繁」で行く模様。兄 信之は「信幸」になるらしい。また猿飛は家臣「佐助」として藤井隆が演じるが、他の所謂真田十勇士は今のところ登場予定にない。実在が怪しいためかもしれないが…尤も彼らの最活躍は関ヶ原以後だから後半検討されないとは限らない。ここは願わくば三谷マジックで忍者=伝奇要素も是非採り入れてほしいところだが…






























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