アリス&クロード・アスキュー『エイルマー・ヴァンスの心霊事件簿』

アリス&クロード・アスキュー『エイルマー・ヴァンスの心霊事件簿』(田村美佐子訳 アトリエサード 2015/12月刊)読。
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アスキュー夫妻という20世紀初頭イギリスの知られざるコンビ作家によるまさに傑作怪奇小説集。これまで訳出されていなかったのが不思議なほど粒揃いで驚かせられる。同時代のオカルト探偵トマス・カーナッキのシリーズは作者(W・H・ホジスン)の特質故か時として滑稽味や冗長さの混入を否めない(反面超自然への沈下は深い)が、このエイルマー・ヴァンスは小説としての洗練度がより高く且つ作者の審美眼のようなものがより強く作用しているように思われる。謂わば〈怪〉のみならず〈美〉の随伴も目指しているような。降霊術に憑かれた夫婦が陥る悲劇を描く「侵入者」多感な娘を惹き込む未知の力を語る「見知らぬ誰か」主人公ヴァンス自身を巡る見霊譚「緑の袖」相棒兼語り手デクスター自身の秘力に触れる「消せない炎」古い一族を縛める呪い「ヴァンパイア」ポルターガイストの邪悪「ブラックストックのいたずら小僧」悪魔のパイプオルガンに魅入られた娘「固き絆」忌まわしい死の館の秘密「恐怖」…中には合理に落とす話もあるが(カーナッキにもあった)そこでの区別が必要ないほどいずれも結末の〈怪美〉な悲劇性に抜かりがない。この際立った特長は解説にあるように「ほとんどの作品に魅力ある女性が登場する」こととひょっとすると関わりがあるのかもしれない。物語自体に女性的繊細さを潜ませる…そんな意図すら見え隠れするのは、あるいは夫婦合作であることも因子か。アスキュー夫妻は第一次大戦渦中で潜水艦に船を撃沈されともに落命したそうで(解説より)、この事件簿に出てくる男女を地で行くそんな衝撃的な最期が遺された作品群に一層ただならぬ影を孕ませるようでもある。新たな名探偵がまた1人怪奇の版図を拡げナイトランド叢書の面目躍如。

なお本書に関しては5年前に中島晶也氏がいち早く原書紹介し↓…
http://borderland.txt-nifty.com/weblog_on_the_borderland/2010/02/post-e7bd.html
…今般の刊行に際しツイッターでも強く推薦している。
https://twitter.com/AkiyaNakajima/status/678561210623639556


エイルマー・ヴァンスの心霊事件簿 (ナイトランド叢書)

エイルマー・ヴァンスの心霊事件簿 (ナイトランド叢書)































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