竹本健治『緑衣の牙』(or牧場智久&武藤類子3部作)

竹本健治『緑衣の牙』(1998光文社文庫版)読。これでゲーム3部作に続き牧場智久&武藤類子シリーズ(『凶区の爪』『妖夢の舌』+本作)ようやく了。…と言いたいところだったがまだ番外篇とされる『風刃迷宮』があると判りorz…

それは一先ず置きこの〈爪・舌・牙〉3部作初刊はいずれも90年代序盤のノベルス版。当時は本作のみ『眠れる森の惨劇』というタイトルでそちらを所持していたがこの改題文庫版を持っていなかったので今般中古で入手(未読の『風刃…』も持っているのはノベルス版のみ)、法月綸太郎解説付きなのが心強し。3作とも雰囲気大きく異なり其々の色合いにおいて興趣深し。が密度的にはこの『緑衣…』が最濃厚の印象。作者自身愛好作とする江戸川乱歩『緑衣の鬼』にタイトル因む(初刊時も実は希望だった由)のみならずやはり偏愛する映画『サスペリア』に通じる女子学園を舞台とする等ひとしお思い入れある作とおぼしく(作者自身のネット上アイコンを同映画に因んでいる)筆遣いにもどこか自信に溢れた強みが漲っているように感じられ。『凶区…』は所謂横溝風世界が採り入れられながらもあとがきで「不得意」「難行」と吐露し(無論謙遜もあろうが)、『妖夢…』は一転『匣の中の失楽』を連想させる霧に包まれた世界が魅力的ながら分量的にやや小品感否めずという中で、『緑衣…』は一番書きたいものを十全に書いたようにも。が作者の意中作という乱歩『緑衣の鬼』との共通点が謎めく緑の人影の跳梁のみなのがいまひとつ得心行かなかったところを、法月綸太郎による同書解説が大いにヒントに。『緑衣の鬼』がフィルポッツ『赤毛のレドメイン家』の乱歩流変奏だったのに対し、『緑衣の牙』は綾辻行人『緋色の囁き』の竹本健治からの謂わば返歌のようなものと…というわけでその『緋色…』も急遽再読することに(綾辻〈囁き〉シリーズは其々初刊間もない頃初読)…

法月解説にあるように『緋色の囁き』も『緑衣の牙』同様、綾辻行人もまた殊更な愛好作とする『サスペリア』からの触発が大きく、あとがきでオカルト物である同映画をミステリーに置き換えたような小説を書きたかった旨明言。但し当然とは言え『緑衣…』と比すと両作の方向性が其々の作者の微妙な趣味の差に応じて異なっているのが興味深い。つまりどちらも同系趣向の学園を舞台としながらも、『緋色…』はある種横溝的とすら言えそうな因縁因果の色彩が濃いのに対し、『緑衣…』のほうは言ってみればそうした因縁因果を断ち斬ること自体が裏テーマとなっているような… …というのは蒙昧の徒の誤読としても、竹本健治綾辻行人が双方向において強い影響関係にあるのみならず相補関係においても深いものがあるというのが両作其々から匂い立ってくる気がしたのは収穫(『緑衣の牙』巻頭の見取図&略地図は綾辻夫人=小野不由美によるとの付記も!)。
またゲーム3部作は総じてこの作者独特の虚無感あるいは倦怠感とでも言うべきものを明確に撃ち込もうとしていた節が窺えたが、後年のこちらのシリーズではそこからやや解脱した(?)ように見えるところが個人的には好ましく。その点から言って3作中から敢えて1作を揚げるとすれば、作者自身は不得意で難行だったとする『凶区の爪』になるかもしれない(舞台とされている地に偶々訪れている故の親近感もあり)。が勿論比較とか選ぶとかいったことはこの作家においてはあまり意味はなく、全作が──未読多いので「おそらく」と付け加えるべきだが──抜き難く共鳴し合っているに相違ないことは言うまでもなし。

…というところで牧場智久シリーズ最新作『涙香迷宮』に愈々挑戦するための準備はこれで完璧…とまでは行かぬが一応OK??

緑衣の牙 (光文社文庫)

緑衣の牙 (光文社文庫)

凶区の爪 (光文社文庫)

凶区の爪 (光文社文庫)

妖霧の舌 (光文社文庫)

妖霧の舌 (光文社文庫)

風刃迷宮 (光文社文庫)

風刃迷宮 (光文社文庫)


シリーズ文庫版装画 渋くて素敵。深津真也という画家。
























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