我孫子武丸『裁く眼』

我孫子武丸氏よりいただきし『裁く眼』(文藝春秋2016/8月刊)を早速拝読す。
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163904597

既成のガジェットに拠らない角度から本格ミステリーを書く試みを続けている観のある我孫子氏の今回のモチーフ(orテーマ)は何と「法廷画」。個人的には最近テレビのニュースや報道番組をめっきり視なくなったため触れる機会がないが以前はときどき見かけた記憶があるのでどのようななものかはおよそ判る気がする。が無論法廷画家の世界の周辺事情など全く知らず思いもよらないこと。そんな意外なものに着眼し小説を書こうと考えること自体この作者らしいと言えるかも。が読んでみるとどうやら必ずしも意外さや珍しさと言った理由ばかりではなくもっと根本的な〈何か〉への動機があるようだと察せられるに至る。本書帯に「「裁判」を描く男 彼の眼は、危険すぎた」とあるとおり、ある連続変死事件の容疑者(※凄い美人)を描く主人公即ち法廷画家の存在そのものが展開に大きく関わってくる。緊迫の裁判シーン、美貌の被告に魅せられていく主人公、探偵的興味を持ち始める姪っ子の女子中学生(※可愛い)、渦中で起こる別の法廷画家殺害事件…と、法廷画と言う一般には馴染み薄い題材からは思いがけないほどに起伏あるストーリーが広がっていきしかも先が読めずどんどんページを繰らせて一気読み必至。傑作にして問題作。
終盤のある会話で、映像が許されるなら法廷画など必要なくなるのにという疑義に対し、映像と雖も実は規制と編集を経たものに過ぎず、且つ又「写真は真実で絵は嘘だ」というものでもなく、その意味で法廷画も映像と同等の「報道」だと説くある人物の見方が示唆的。歴史上有名な報道写真にも捏造があることが知られているし、昔よく聞かれたモンタージュ写真よりも近年多用される似顔絵のほうが捜査に役立つ(似過ぎた手配絵に犯人が観念し自首したとか)とも言われ、絵と──と言うより視覚と事件捜査、ひいては視覚とミステリーという問題は非常に重要なわけで、その観点に卓抜な角度から目を開かせてくれる小説。
弥勒の掌』『殺戮にいたる病』あるいは〈速水〉&〈人形〉シリーズも含め──と言うより他作も実は全てそうなのだが──現実的展開の背後に潜む物語の(あるいは人間の?)神秘、とでも呼ぶべきものにこの作者が常に鋭い視線を向けているらしいことが本書でまたひとつ窺え知れて意を強くす。…


有難うございました!

裁く眼

裁く眼




…ところで本書装画パッと見作者と親しい喜国雅彦氏の作か?…と一瞬思ったがそうでなく榎本よしたか氏作と知る。『裁く眼』で画像検索すると榎本氏自身によるアップとおぼしい雑誌連載時(『別冊文藝春秋』)の挿絵も複数出てきて興味深し。イラストレーター&漫画家にして何と法廷画家でもある由! (※イケメンだ…)

…でこの装画一見して判るように遠景の法廷を近景で画家がスケッチしているメタ構図?になっていて面白い。しかもこの絵よく見ると(以下自粛)…


























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