友成純一『蔵の中の鬼女』

友成純一『蔵の中の鬼女』(アトリエサード 2017/9月刊)読。
http://athird.cart.fc2.com/ca9/207/p-r7-s/

解説及び作者あとがきによれば 90年代前半『小説CLUB』誌(orその別冊?)に連載した読切短篇シリーズ〈幻夢城〉とその関連作群から15篇を精選した集成の由(※実質的にはほとんどが増刊号掲載作らしい)。それが何と雑誌から千切りとって溜めておいたものが押し入れから見つかったため実現した企画と言うから凄い話。「長篇でバイオレンス・アクション、スプラッタをやっていたので、幻想ファンタジーっぽい設定で話を作った」「それぞれ独立した短篇だけれど(中略)同じ世界の話として読んでもらっても良い」(ともにあとがきより)とのことだが 実際に読むと 世上の所謂幻想ファンタジーという語のイメージとはかなり異なり「これぞ友成純一」な雰囲気は依然濃厚で 帯惹句のとおりこの作者のエッセンス凝縮の感強し。またテーマや舞台によって「炭鉱怪異譚」「人外幻覚境」「恐怖霊異譚」「猟奇名画座」の5部門に分けられ且つ其々に解説が付され親切。
「俺はなんて才能があったんだろう」との作者の自信は鼓舞にとどまらず本当に全作驚くばかりに面白いが それは本領たる猟奇趣味や惨虐描写の冴えのみならず 要諦を心得切った怪談作りの巧みさや心理記述の鋭利さ等に因るところも大きい。前者の面──グロテスク&過激発想──は 薬物中毒男が暴淫を極める「鬼になった青年」や作家を襲う異常な悪夢「夢見る権利」や〈眠り男〉(某古典映画からか)が起こす大惨劇「妖精の王国」等にとくに顕著で 後者──ゾクゾクさせる作劇技術の妙──は実話かとも思える(主人公名が友成純一)「幽霊屋敷」やコーンウォール舞台の奇譚「お伽の島にて」等で発揮され 中でも最瞠目は都市伝説型怪異「後ろを見るな」で フレドリック・ブラウンの同題作とは趣き違い どこかしら『世にも怪奇な物語』中の「悪魔の首飾り」連想さす傑作。また「最も気に入っているのは、筑豊を舞台にした一連の作品」と作者が言うごとく 表題作含む巻頭の3篇は豊かな地方色も印象濃く 且つその内の「邪神の呼び声」「地の底の哄笑」はクトゥルフ神話の系列に属し 解説が誇るように郷村家シリーズとも言えるこの2作が併録されたのは幸い。総じて 残酷や悪趣味要素と雖もあまりに突き抜け過ぎて(作者のキャラクターも反映してか)まさに哄笑を誘うほどなのと 終始の語りの佳さとが相俟ち 意外にも厭さはなく(?)読後感は爽快ですらある。これほどの秀作群を長篇群と並行して自分でも覚えていないほどの高速で書き飛ばしてきたと言うこの作家はやはり天才と改めて。
「さらに数冊は出せるだけ、原稿は見つかっている」そうで 本書の奏効と続刊に期待。

蔵の中の鬼女 (TH Literature Series)

蔵の中の鬼女 (TH Literature Series)


『蔵の中の鬼女』はアトリエサード社よりお贈りいただきました、ありがうございます!





























.