クラーク・アシュトン・スミス『魔術師の帝国 1ゾシーク篇 2ハイパーボリア篇』

クラーク・アシュトン・スミス『魔術師の帝国』(1ゾシーク篇&2ハイパーボリア篇 アトリエサード 2017/2&4月刊)
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安田均 荒俣宏 鏡明 広田耕三 山田修 装画 中野緑

途中長期間隔置くも漸く読了。ラヴクラフト『暗黒の秘儀』と共に古書未入手のままの創土社版『魔術師の帝国』の復刻+αの集成である点が個人的に殊更快事。一般的にも創元推理文庫版作品集(『イルーニュの巨人』及び近年の3巻本)が既に新刊本出廻りなく古書価まで高騰の折「スミス紹介の先鞭を切った編者」(=本書『1ゾシーク篇』帯より)安田均氏による編訳書がこの機に出たのは最好時宜と。『1ゾシーク篇』は超遠未来世界ゾシーク舞台シリーズ9篇(詩1篇含む)『2ハイパーボリア篇』は超古代大陸ハイパーボリア物5篇(断章含む))+異星舞台物他10篇(新収録1篇含む)。多くのシリーズがその内部でさらに細かな関連作群に分けられる等の複雑な年代記構造については『1ゾシーク篇』巻末収録の「解題(一九七四年版)」に詳しい。今般書き下ろしと思しい「編者あとがき」(『2ハイパーボリア篇』巻末)の中で安田均氏が「(スミス作品の)魅力の第一は、何といってもその「異境性」だろう。彼ほどいくつもの「世界(観)」そのもので勝負できている作家は珍しい」「これほどキャラクターやプロットよりも世界(観)が目立つ作家も珍しい」と述べている通りこの作家の独特極まる絢爛怪美な幻想造出の天才性はまさに唯一無二と呼ぶしかないほどでその影響は後年のブライアン・ラムレイティームフドラ大陸シリーズやドリームランド物にも強く窺えるが──そうした性向の中でもとくに近年のCthulhu神話ブームとの関連から注目すべきはスミスの〈怪物〉造形の凄さもあるのではと。最顕著なのは『2ハイパーボリア篇』収録の蟇蛙型邪神ツァトゥグアや蜘蛛の神アトラク・ナクアや宇宙の汚辱の父母アブホースに触れられる「七つの呪い」でありそれと比肩するのがこの世の原初にして終末たる究極の神を語るタイトルもそのものズバリの「ウボ=サスラ」になるが他にも「アブースル・ウトカンの悲惨な運命」では蟾蜍の顔と烏賊の胴と手足を持つ不気味な生物が出現し「マアル・ドゥエブの迷宮」「花の乙女たち」では吸血花の姿をした女怪群が登場し「ヨー・ヴォムビスの地下墓地」では悍ましい人喰い蛭の大群が襲う。一方の『1ゾシーク篇』でも「最後の文字」では魔物の頭を持つ白い大蜘蛛の群れや半人半猿の青い男の人魚が出てきたり「忘却の墳墓」では壺形の胴に二つの頭を持ち甲烏賊の嘴と老王の顔と紅玉の目を具えた化け物が延々描写されたり「アドンファの園」では様々な人間の部分や器官からなる接ぎ木の大群が出てきたりetc…と枚挙に暇なし。唯一惜しいとすれば巷間高人気らしいルリム・シャイコースが暴れる「白蛆の襲来」が入れられていない(創土社版も)ことか。「編者あとがき」によれば今後『魔術師の帝国3』として幻視国アヴェロワーニュ舞台物の傑作集が編まれる予定があるそうなので名訳と名編による新たな異境&異形の展開と展望に期待したい。

魔術師の帝国《2 ハイパーボリア篇》 (ナイトランド叢書)

魔術師の帝国《2 ハイパーボリア篇》 (ナイトランド叢書)

Tsathoggua

Atlach-Nacha

Abhoth

Ubbo-Sathla

























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