『こ・めでぃうむ』ver.20180506/ホレス・ウォルポール『象形文字譚集』

26th文フリ狩猟品の内『こ・めでぃうむ』ver.20180506(れうにおん 発行) &ホレス・ウォルポール象形文字譚集』(懐古文庫 発行)読。

↑いつも乍らデザイン爽快な『こ・めでぃうむ』最新号。収録作いずれも副題(or紹介)が内容把握に役立ち。
波留吉久「拝啓ヒロイン様」(TS者たちのサナトリウムの淡い物語)…急性異性化症候群患者の美少女&美少年の切ない恋文代筆譚だが…短くも一筋縄ならず。
蒼田ガイ「挽き肉」(自殺愛好者と自殺予知者の邂逅──青春暗黒小説)…これまたある種の〈症候群〉患者同士とも言える異能者交流テーマは上記作↑に通じるが…グロテスクさは格段。
山田摩耶「乙女心とアイの空」(様々な表情を持つ空と乙女心──空になぞらえた百合小説)…の副題の通りレズ物+極微量BL味がこちらも「拝啓…」と一脈だが…よく考えると相当淫猥な話。
根倉野蜜柑「廃墟の犬」(死の美を愛する少女たちの物語)…「挽き肉」に通じるネクロフィリアテーマだが…ある仕掛けが奏効しさらなる厭さ加減に。朗読(!)用作品改稿の由。
佐藤骸骨「メディシンマン」(呪医のもとを訪れたのは月を見ると兎になってしまう男)…これのみ漫画。兎になる原因のみならず美貌呪医の病み具合も注目。
ホレス・ウォルポール「妖精の物語」(訳 平戸懐古:『オトラントの城』や『象形文字譚集』の作者二十代の奇想掌篇)…これのみ翻訳作。アヒルの世界舞台の人を食った滑稽譚…のように見え乍ら解題によれば作者自身にも関わる複雑なイギリス史への風刺+言語遊戯に溢れる由。かすかな艶笑味も。
総じては「妖精…」以外(いやそれもある意味?)期せずしてLGBT&異常(と敢えて呼ぶ)嗜好を材とする作が揃い 瀟洒な造本とのギャップ感もまた佳し。


一方 上の写真↑右の『象形文字譚集』は上記「妖精…」の紹介にもあるウォルポールの連作小品集で『こ・めでぃうむ』既刊号に載せた6篇に加え「序文」「あとがき」+関連作1つを新たに訳出して今般目出度く集成刊行(訳は全て平戸懐古)。全作掌篇乍らいずれも曲者度高く うかうかとは読み進められず。
まず「序文」からして「世界の創造の少し前に書かれたもの」と宣言する等巫山戯まくりで1語として素直には読めず(解題によれば「信用できない語り手を擁すメタフィクション」)。続く「新説・アラビア夜話」はタイトル通り『千夜一夜物語』のパロディだが…唐突過ぎる展開が滑稽且つ不気味。「王と三人の娘」は寓話風を装い乍ら生と死の概念の混乱を呼ぶ怪作で「構築の見事さにおいて最上」と訳者賛。「サイコロ箱 おとぎ話」は象と天道虫の牽くピスタチオの馬車なるわけの判らないものやらソロモン王とシェバの女王まで登場する奇想篇。「桃入りブランデー ミレー人の物語」は架空国の幼女王が引き起こすてんやわんやだが…ある因果から読むと「風刺とか皮肉を越えた悪夢」の由。「ミ・リ 中華のおとぎ話」は空想上の中国の皇子の大スケール冒険譚で集中最長。「真の愛の物語」はロミオとジュリエット思わす悲恋譚だが…アッと驚く仕掛けは「最も早い作例」の可能性ありとのこと。さらに訳者解題のあとに新たに加えられた(=某『厭な物語』を意識した構成?)「鳥の巣」もまた奇態な夢幻譚だが…何がしかの理由で本作品集に加われなかった作として推理披歴。
全作飄々たる雰囲気の反面極めて衒学的で 訳者による読解に頼らねば(いや頼っても無学な徒にはなお)難解さ易くは乗り越え切れず。その意味でよくぞここまでと感嘆必至の研究の深さだが…『オトラントの城』を卒論として以来の念願の訳出達成とあれば宜なる哉。訳文の平明さ&律動感も見事でそれなくしてはの感。ゴシックロマンスの祖ウォルポール再発見の契機となるべき成果慶賀(50冊忽ち完売の報は既に充分契機となったゆえ?)。





























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