池波正太郎 森村誠一 他『血闘! 新選組』(末國善己編)

末國善己 編『血闘! 新選組』(実業之日本社文庫 2016/2月刊)
http://www.j-n.co.jp/books/?goods_code=978-4-408-55281-1

末國氏編による同文庫での時代&歴史小説アンソロジーとしては軍師三部作(『軍師の生きざま』『軍師の死にざま』『軍師は死なず』)『決戦! 大坂の陣』『永遠の夏 戦争小説集』『決闘! 関ヶ原』『真田忍者、参上!』に続き8冊目になるが他社での編纂も通じ新選組テーマは意外にも初。沖田総司始め人気人物も多いとは言えやはり幕末系は戦国物に比し絶対数に欠けるか、と思いきや解説によれば「新選組を題材にした小説は膨大な数にのぼる」とのこと。「子母澤寛新選組始末記』以来学者よりも市井の研究家や作家によって知名度をあげていった」と言うこのテーマの戦後作品から10篇選びいつものように概ね年代順なのが親切。
全作通じて何よりも先ず感じるのは新選組を巡る〈女たち〉に纏わる話が目立つこと。──実は読後編者末國氏に会う機会があり直接訊いたところその点はとくに意図したわけではない由。土方歳三と恋人お房の逸話を軸にした池波正太郎「色」、沖田総司の哀恋を綴る大内美予子「おしの」、桂小五郎 山崎蒸に絡む女たちの悲恋を語る藤本義一「赤い風に舞う」、山南敬助の恋人おつなの悲劇を描く南原幹雄「女間者おつな」等がそれでとくに南原作品の残酷過ぎる結末が凄絶。戦国物では妃や姫など高貴な女たちに偏りがちだがこうした無名の女たちが劇的に描かれるのが幕末物の特質か。また残酷譚と言えば新選組には付き物のようだが中でも一番戦慄驚倒させられるのが宇能鴻一郎「群狼相食む」で新選組の敵方〈人斬り以蔵〉こと岡田以蔵の酸鼻を極めた悪行描写がこれまで知らなかっただけに目を覆わしむる衝撃度。末國氏によればほぼ実話だそうで萩原健一 佐藤健ら人気俳優が大河で演じてきた狂気の美剣士とも呼び得るストイックなイメージが崩れ去ること必至。…と言うと厭な話ばかりかと思われそうだが火坂雅志「石段下の闇」新宮正春「近藤勇の首」津本陽祇園石段下の血闘」中村彰彦五稜郭の夕日」等 怪談絡みあるいはミステリータッチあるいはまた剣戟アクションと多彩さもあり。中でも最異色は巻末の森村誠一「剣菓」で新選組既に亡き明治期の市井譚が意外なラストで繋がりアッと驚かせるとともにある好感をも懐かせる佳篇。
不肖評者はドラマ『新選組始末記』(1977版)の影響で(とくに風間杜夫の佐伯亦三郎が強烈)新選組については酷薄な組織という印象を拭えずにきたがこの集成ではある意味それをさらに強められたかもしれない──がそれだけに各作ともそんな題材を活かし切った傑作揃い。




























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