倉阪鬼一郎『魔界への入口』

倉阪鬼一郎クトゥルー短編集 魔界への入口』(2017/4月刊 創土社クトゥルー・ミュトス・ファイルズ)読。
http://www.soudosha.jp/Cthulhu/tanpensyu.html

作家生活30周年に際しデビュー作品集『地底の鰐、天上の蛇』(1987)にまで遡りクトゥルー神話系短篇群に散文詩や短詩をも加えた決定版的集成。新しいほうでは今年(2017)刊の歌集の短歌も入れられておりまさに30年間の〈この道〉における作者の全貌を概括展望できる。その中で巻頭作が『地底…』所収の「インサイダー」なのはラヴクラフトの「アウトサイダー」こそ「何物にも代えがたい」(「あとがき」より)とする不変の標榜によるオマージュだけに皮切りに相応しく現在にして一層の輝きを放つ力作。第2作品集『怪奇十三夜』(92)からの「異界への就職」はタイトル&導入部からして嘗て初読のときは冗談半ばかと危ぶんだが(勿論その志向もあり乍ら)意外やスケールの大きさと本気度に驚き。「便所男」(以下3作『地底…』より)もまた入口では悪趣味さに辟易する向きもありそうだが実は短い中に本質的部分が詰まる。「七色魔術戦争」は作者の色彩執着を巡る原点的1作で終末幻想が強烈。「鏡のない鏡」はこれまたアウトサイダー的幻視炸裂の掌篇。「未知なる赤光を求めて」は色彩愛の中でも最重要な〈赤〉偏愛の象徴作。ランドルフ・カーターが僅か1ページ乍ら登場。…とここまでが初期作群で次の3作は『異形コレクション』参加期。「白い呪いの館」は〈俳優〉テーマで作者の好きそうな忘れられた怪奇役者が活躍。どことなく岸田森を思わせるが伝説のドラマ『白い手美しい手呪いの手』と関連? (潮寒二「蛞蝓妄想譜」映画化設定もニヤリとさせ)「常世舟」は〈江戸〉テーマで時代小説に本腰を入れてからの作とおぼしく情緒既に堂に入り&エロチシズム激烈。「茜村より」は〈神〉テーマで和物土俗系譜乍らここでも「赤い光」がポイント占める(このモチーフへのこだわりはA・マッケン『夢の丘』からの触発か)。交野東亜(かたのとうあ)なる名の画家言及。次の「底無し沼」は『百鬼譚の夜』(97)所収で集中最長の力篇。謎の小説『底無し沼』を追い求めてのミステリー味も濃い奇譚は自家薬籠の世界で個人的に最も好みの1作と敢えて推したし。「イグザム・ロッジの夜」は大部書き下ろし集として話題呼んだ『秘神界』(02)寄稿作でアーウィン・フォートやメアリ・ウェイクマン等思わせぶりな人物名が目を惹くイギリス舞台の本格的雰囲気作。作中引用される「虚空に独り」は嘗て作者が並木二郎と共訳したラヴクラフトの詩(国書刊行会版『定本全集7-2』より)でこれまた懐かしく。以上初期作6篇・後期作5篇が其々「混沌」「彼方へ」の副題で纏められ各末尾に書き下ろしらしき断章(「虚空の夢」「海へ消えるもの」)が付随。巻末には『日蝕の鷹、月蝕の蛇』(89)始めとする歌集&句集からクトゥルー神話的イメージ鮮烈な定型短詩14作+散文詩5篇。詩集及び句集の1つはマイブックルと言う自費出版システム(現在はサービス終了)で出したものだそうで売れっ子作家になってからも好きな道には形態に拘わりなく邁進する姿勢に感心余儀なし。予想遥か以上の充実度傑作集の仕上がりで感嘆頻り。
なおカバー装画は何と作者自身の筆になり赤黒い背景中の仄白い蝋燭は〈この道〉の心象感如実。挿し絵の一部も担当。



『魔界への入口』は倉阪鬼一郎さんからご恵贈賜りました。30周年お目出度うございます&ありがとうございました!






























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