グレッグ・イーガン『祈りの海』『シルトの梯子』

風狂通信』Vol.5 新本格30年特集号でのインタビュー↓で法月綸太郎氏に…
http://d.hatena.ne.jp/domperimottekoi/20180615/1529065663
…「これこそ21世紀のパズラーだ」「世界観が変わった」「この路線でやっていくべきではないか」「イーガンの多世界解釈を本格で書いたらデクスターになる」「『ノックス・マシン』はそういうところから出てきた」等々と言わしめ決定的な影響を与えたグレッグ・イーガン短篇集『祈りの海』(山岸真編訳 ハヤカワ文庫SF 2000年刊)を今更に(刊行後18年)読。イーガンの短篇は長篇に比し遥かに解り易い──と言うより解り易いかのように曲解が可能(?)。短いため難しい用語を多く入れるのに適さずの物理的制約かあるいは単に作者の意図か兎に角比較的日常世界的雰囲気が濃いのは読者には幸い──あくまで「比較的」だが。本書は法月氏の言も宜なる哉のまさにアイデア宝庫感。
「貸金庫」人格転移恒常化世界の悲劇。「キューティー」人工赤ちゃん産出&養育の悲喜劇。「ぼくになることを」脳の宝石化と永遠の生。「繭」テロリストに挑むゲイ探偵の活躍。「百光年ダイアリー」時間逆転銀河と未来予知。「誘拐」妻の誘拐と仮想現実。「放浪者の軌道」謎の概念〈アトラクタ〉が生む万物軌道周回。「ミトコンドリア・イヴ」〈ミトコンドリア・イヴ〉が招く全人類の〈先祖戦争〉。「無限の暗殺者」無限に連なる並行世界でのテロリストとの戦い。「イェユーカ」謎の疫病〈イェユーカ〉と治療装置〈指輪〉。「祈りの海」惑星移住人類の信仰〈移相教〉の女神ベアトリスの謎。以上11作全て1人称なのも奏効。最力作はおそらく神の問題を扱った巻末の中篇表題作(イーガン流『沈黙』?)だが個人的最好みはスパイスリラー的面白さの「繭」バイオホラー風の「イェユーカ」か。小品乍ら「誘拐」の皮肉味も快。編訳者山岸氏があとがきで記す通り人間のアイデンティティの問題を含む作が多くまた「地動説が最初に紹介されたとき人々が感じただろうような驚きを」与えたいとの作者発言主旨も示唆的──その直接具体化作ありと仄めかされているが…「ミトコンドリア・イヴ」?…が全作そんな可能性も…。
月氏『ノックス・マシン』への触発は素人目にも頷けはするが…ただイーガンの真摯さに比しあちらはお遊び(パロディ)に走り過ぎているような…

一方備忘は6月読了のイーガン長篇『シルトの梯子』(山岸真 訳 ハヤカワ文庫SF 2017/12月刊)。発売後既に半年以上経過もイーガン邦訳としては最新になるが英米での原著刊は2002年の由。訳者あとがきに「イーガン作品の中でもハードSFの極北と称される系列の一冊」とあるが実のところこの作家の長篇は何であれ極北の感で(僅かに『ゼンデキ』が比較的取り組み易いかのようにこれまた誤解できるが)この際開き直りが吉と挑戦するも…やはり難解過ぎは変わらず。前野昌弘氏の解説がまた口調こそ砕けているが超専門的で増々眩暈(量子グラフ理論/サルンペト則等の尤もらしい用語はイーガン創作のようだが)。それでも一縷期待持たせるのは作品が依然として「小説」だからで詰まるところストーリー・人物・構成等の通例要素に縋るしか。構成は短い第一部と長い第二部とから成り前者は後者のプロローグの趣きで両者間には数百年の懸隔があり(超遠未来宇宙空間&寿命数千歳なのでその程度の時間差は些少)一部で出現した敵性空間に二部の未来人たちが如何に挑むかと言った骨子だが──それのみにとどまらずある人物を軸として両者が期待に違わぬ円環美を形成。ここで個人的に思い出す最近の例が陳浩基『13・67』でやはり巻頭/巻末が見事な円環を…思えば同書冒頭作はある種SF的あるいはイーガン的でしかも作者陳氏が愛好公言する島田荘司ヘルター・スケルター」にも類縁の面が…してみればイーガン/法月/島田/陳の四辺形はさながら21世紀本格ミステリの意外な新骨格の観?…

…なんてね。

祈りの海 (ハヤカワ文庫SF)

祈りの海 (ハヤカワ文庫SF)

祈りの海

祈りの海

シルトの梯子 (ハヤカワ文庫SF)

シルトの梯子 (ハヤカワ文庫SF)

シルトの梯子 (ハヤカワ文庫SF)

シルトの梯子 (ハヤカワ文庫SF)

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山岸真さんありがとうございました!





























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