綾辻行人『深泥丘奇談・続々』

綾辻行人さんより『深泥丘奇談・続々』(2016/7月刊 KADOKAWA)をお贈り頂いてしまいました、小生ごときにまで…有難うございます!
http://store.kadokawa.co.jp/shop/g/g321508000100/
…と言いつつ1巻目『深泥丘奇談』(メディアファクトリー2008)は初刊時に読みいきなりラヴクラフトの名や〈DAGON〉なんて店や「外戸」なんて意味深な名前の人物やらが出てきてその方向を予想していなかっただけに吃驚した記憶があり…と言うことはそれも頂いていたのだったような気がする──ではなく頂いていたのに違いない。が次の『深泥丘奇談・続』(同2011)はどうも読んだ記憶がなくそちらに関してはどうやら頂いていなかった──のかもしれない。いや勿論頂いたまま積本に紛れそれきりにしてしまった可能性も大いにある──のだが。…
兎に角そんなわけでこの機にとぱかりにシリーズ前2巻の文庫版入手し今般の3巻目とともに改めて通読した!

…すると『続』の文庫解説で大森望氏がいみじくも「そこはかとないユーモアと妙なゆったり感」と書いているが不肖評子のように実生活での影響からか読み物に「怖い」や「恐ろしい」を感じにくくなってしまった──と言うか怪奇小説や怪談にもなぜかあまり怖さを求めておらず──と言うか人様が怖いと言う感覚はどうにか理解できないわけじゃないが「怖い=佳い」でなく「怖い=面白い」になってきてしまっている身にはこの「そこはかとないユーモア」というものが凄く嵌まると今更に判った。いやもう…終始けけけけけならぬくくくくくと笑い噛み殺しっ放し! 古賀新一直伝のちちちちち…に始まりひぃぃぃぃやんんんんんやかりかりがじがじやきいいいいっ!や果てはみゅみゅみゅみゅみゅにまで至る深泥丘(みどろがおか)に溢れる擬音擬声の数々やサムザムシ・コネコメガニ・オオネコメガニ・ネコメムカデ・鳥・猿・猫・子供…etcの深泥丘独特の生き物たちや森月さん・海老子くん・石倉医師(一)・石倉医師(ニ)…等々の愛すべき人物たちは最早「そこはかとない」どころのレベルじゃなくむしろあからさまな哄笑を誘うためのネタではないかと! 最新の『続々』ではそれが殊更意識的のように思われるが…元々遊び心(稚気)はミステリーには付き物(憑き物)なわけで同じ作者の館シリーズも突き詰めればそこで成り立っているようにも見えるからこういう闊達自在に書いたかのような連作短篇もカッチリ組み立てられた長篇群と実はそんなに大きくは違わないのかもしれない──ような気も。言葉遊びと言えば同系の先輩大家である竹本健治氏の『涙香迷宮』のように一分の隙もない遊戯の大伽藍とは異なりどこか気紛れな呟き(tweet)のままのようなところもこの作家らしい趣で…「減らない謎」「死後の夢」「ねこしずめ」…等タイトルからし吹き出してしまいそうなお巫山戯心横溢。と同時にミステリー的理詰めの枷から解き放たれての奔放極まる想像力の発露も…とくに「忘却と追憶」「海鳴り」「夜泳ぐ」等での〈巨鳥〉を巡る幻視や「ねこしずめ」での〈猫柱〉に集約されるシュールなイメージが特筆物(後者はどこか「丘に、町が」猫バージョン?と言えそうな観も)。そしてこのある種病的な幻想都市を象徴する深泥丘病院が今回も大きな役割を果たす。怪薬タマミフル、謎めく咲谷看護師、ウグイス色の眼帯をした医師たち…昨今何かと健康不安を抱えていることにかけてはこの本の主人公&作者に負けないような気がする読者としては何とも魅力的で出来ればかかってみたい?病院だとすら。…
思えばこのシリーズの重要人物〈妻〉のモデルに違いない作者綾辻氏夫人の筆になる『残穢』『鬼談百景』はこの『深泥丘奇談・続々』と同じ頃書かれていたのでは? …と考えるとそちらを既に読み映画まで観た現時点でこちらをも読むというのは一段の感興。版元の惹句には完結篇とあるが作者あとがきには「そういうわけではないような気も」ともあるのでまたいずれどこかで折に触れ不意を衝くように書かれたりするのかもしれない──まさに忘れた頃再出演・再登場するこの連作群の人物たち小道具たちのごとく唐突に。そのときには願わくは某神話系の作を是非ものしてほしいと秘かに期待したい。 ──のですが。

有難うございました!

深泥丘奇談・続々 (幽BOOKS)

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