千澤のり子『君が見つけた星座』
千澤のり子 作『鵬藤高校天文部 君が見つけた星座』(原書房 2017/2月刊)読。
http://www.harashobo.co.jp/new/shinkan.cgi?mode=1&isbn=05379-7
『ジャーロ』連載の連作をまとめた1巻。収録5篇いずれも50ページ内外あり短篇より中篇に近く読み応えあるボリューム。タイトルのとおり鵬藤(ほうとう)高校天文部の個性溢れる面々をレギュラーとする事件ありロマンスありの青春群像劇──と容易く纏めてしまうのは些か勿体ない多方面への好奇心とミステリーへの感性に富む作者らしいさり気なくも鋭利な企みと試みに満ちた物語集。
さまざまな天体観測が各篇に出てくるがその道に無知な読者としては「それってそういうことなのか」と開眼の連続に。1作目「見えない流星群」のモチーフとされる流星にしてからがその言葉だけは普通に知っている気でいたのに 流星の中心を輻射点と呼ぶとか おひつじ座流星群というのは夜空に目を凝らしても決して見えないとか(そのわけは作中に)目を見開かされ。2作目「君だけのプラネタリウム」では部員たちが段ボールで手ずからプラネタリウムを作ったり 3作目「すり替えられた日食グラス」では牛乳パック再利用して日食観察眼鏡を大量に作ったり 4作目「星に出会う町で」では天体望遠鏡を作ってエコツアーに参加したり 最後の「夜空にかけた虹」ではプールの水とライトで夜に虹を作ったり!…と兎に角天文部のクリエイティビティに瞠目。一番大きな天体イベントは3作目のテーマとなる金環日食でこの言葉も何となく意味解るつもりでいたがその実 数十年数百年ごとにしか起こらない しかも国により見えたり見えなかったりの奇蹟的事象だとは念頭になくこの小説で初めて知識の一端に。…と言うように作者自身実際に天文部にいたのでは?と思わせるところ多々(orこちらが常識に疎過ぎなだけ?)。また星座に纏わる神話や伝説もベダンチックと感じさせない何気なさで鏤められ且つお話のポイントと密に絡んで効果あげ。ミステリーなので当然乍ら各篇とも何がしかの変事怪事が軸となりときに人の死も出てくるが 毎回殺人事件が起こったりするわけではなく と言って所謂日常の謎に終始したりもせず 各作其々の面白さ遂げつつ全話に跨る起伏のバランスにも絶妙配慮感。それはどうやらこれら5篇でひとつの大きな物語に──ある意味での長篇小説に──なっていることと関係あるようで 幾多の要素が最後に全容の謎を照らす光へと収斂する。ミステリーを愛するこの作者が伏線の配置とその回収の大切さ&魅力を常に説いていた記憶があるが 自らの実作でそれを見事体現していることに改めて感心(読後冒頭に還って読み直すと感慨ひとしおに)。
主要人物は語り手の一年生女子 菅野美月(すがのみつき) を始めとして 少し軽いノリの同学年男子 高橋誠 ギリシャ彫刻並み長身二枚目先輩 中村圭司 同じく長い黒髪の超美人 霧原真由美 等々キャラ立ち揃い。主人公の美月は「序章」である出来事に遭いその余波が全篇に一抹の昏い影を落とすが それはひょっとすると作者自身の内にある心象風景の反映かもしれず この連作集が浮き足立ったところのない凛とした知と理に満ちたものとなっていることの深因であるようにも。学ばせられること多き傑作。
上に掲げた写真の↑本書装画 実は幾つものヒントが絵と装丁(帯まで含め)の中に配され。(絵 usi)
- 作者: 千澤のり子
- 出版社/メーカー: 原書房
- 発売日: 2017/02/21
- メディア: 単行本
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余談 ドラマにしたら面白そう。主演=菅野美穂 高橋=菅田将暉 中村=阿部寛 霧原=霧島れいか──って俳優の世代バラバラ過ぎるが(ネーミングとキャラからの連想+個人的好み)… オトナ設定に変えれば意外と合うのでは?(原作者には不満かもしれないが)
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